れっくすのつぶやき

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傷物語

映画「傷物語」を見た。

とても面白かったです。もともとこの映画は3部構成になってて、自分は1作目の鉄血編しか見てなかったんですけど、今回BD借りて3作全部見終わりました。

いやー面白かった。話の内容自体は既に本で読んでて知ってたんですけど、どんなもんかと思って映画を見たら、とても驚かされた。

 

で、感想なんですけど、みなさん「ヌーヴェルヴァーグ」ってご存知ですか。

 ヌーヴェルヴァーグとは・・・

ヌーヴェルヴァーグフランス語Nouvelle Vague)は、1950年代末に始まったフランスにおける映画運動。ヌーベルバーグヌーヴェル・ヴァーグとも表記され、「新しい波」を意味する。

広義においては、撮影所(映画制作会社)における助監督等の下積み経験無しにデビューした若い監督達による、ロケ撮影中心、同時録音、即興演出などの手法的な共通性のある一連の作家・作品を指す(単純に1950年代末から1960年代中盤にかけて制作された若い作家の作品を指す、さらに広い範囲の定義もあり)。しかし、狭義には映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の主宰者であったアンドレ・バザンの薫陶を受け、同誌で映画批評家として活躍していた若い作家達(カイエ派もしくは右岸派)およびその作品のことを指す。

(ウィキペディアより)

 要は1950年代末から1960年代中盤までにおけるフランス映画によくある撮影手法と言うことですね。

もともとは古きハリウッド映画への回帰を目指した運動で、その中には今でも残るような撮影技法もあります。例えばジャンプカット、ショットを途中で飛ばしてまるで時間がぶっ飛んだように思わせる効果がありますね。それとメタ表現、「第四の壁」なんて呼ばれ方もされています。映画の中のキャラクターがスクリーン越しに話しかけてきたりするアレですね。観客に「これは映画だ」ということを強く意識させます。

こういった撮影技法はヌーヴェルヴァーグにおいて多く見られますが、それがこの「傷物語」とどう関係があるんでしょうか。

 

実は、このヌーヴェルヴァーグの手法が、物語シリーズのアニメではかなり多く使われているんですね。これは多くの方が指摘していて、シリーズの演出である尾石達也さん(傷物語では監督を務めた)も、ヌーヴェルヴァーグから影響を受けていることについて認めています。物語シリーズのアニメ中における前衛表現、例えば会話シーンにいるはずのキャラを別のものに差し替えたり、会話をテロップだけで表現したり、ジャンプカットを多用したりと、注意深く観察するとヌーヴェルヴァーグの影響がとても色濃く反映されているのが分かります。

では映画、「傷物語」においてはどうでしょうか。

もちろん、映画でもヌーヴェルヴァーグ的手法は多く使われています、メタ表現などはあまりなかったものの、前衛表現やカットの幅はいままでの物語シリーズと同じか、それ以上だったと僕は思います。フランス語もめちゃくちゃ登場してたしね。

しかし、むしろ僕は最初から期待していたヌーヴェルバーグ演出よりも、もっと違う部分に驚かされました。作画とカメラワークです。

 

物語シリーズの醍醐味といえば、やはりなんといっても会話シーン。

会話の途中で話が脱線したり、かと思えば突然言葉遊びの真剣勝負が始まったりと、とにかく目まぐるしくキャラ達の掛け合いが飛び出してくるのが物語シリーズですが、今作ではそういった「不必要な会話」はほとんどでてきません。あるとしても、必要以上に物語からは脱線せず、小さいギャグ程度に収まっています。さすがに映画の尺であの長ったらしい会話はだれるのかなやっぱ。

その代わりといってはなんですが、キャラがもう動く動く。その辺のアクション映画より動いてます。作画を努めるのも大ベテランたちで、そりゃもう作画に関してはほとんど文句なしでした、GJ作画班。ときにはグロテスクなほどに、ときには艶めかしいエロスを醸し出しながら、キャラが画面いっぱいに動きます。こんな物語シリーズ見たことがない。

それに、今回映画を作るにあたって、キャラデザを大幅に変更してるんですよね。今までのキャラデザとは違い、非常に立体感のあるキャラクターデザインです。監督曰く「映画のスクリーンの中でも浮かないようなキャラデザ」らしいですが、これも個人的にすごく良かったと思います。たぶん今までのキャラデザじゃこんなに新鮮な気持ちで見られなかっただろうし。忍の形態変化もみんな可愛かったな(個人的には2段階目の、中学生みたいな姿が好きです)

背景もCG多用で非常にスクリーン映えします、あえて背景をダイナミックにみせるカメラワークが多く、はえ~すっごい迫力・・・みたいな感じになります。

 

で、全体的な感想ですが・・・

個人的にはめちゃくちゃお勧めしたい映画です。でも物語シリーズファン向けかなやっぱり。一応時系列的に一番最初のお話なので、新規で見ることもできるんですが、映画から見ちゃうとアニメを見たときに面食らうとおもう・・・

それぐらい普段のアニメ版とはまったく違う雰囲気の映画です、あまり掛け合いやモノローグに焦点を置かず、アニメーションや絶妙なカメラワーク、あるいはヌーヴェルヴァーグ的演出に焦点を置いて、ダイレクトな興奮を与えてくれます。

ただ、これ3部作でやる意味ある?と思いました。それぐらい話が分かれてることに何の仕掛けも無かったです。(さすがに全部を一本でまとめるのはキツくても前後編くらいでよかったのでは)

物語シリーズは当初とても革新的なアニメでした。原作やシャフトという会社なこともあって、前衛的且つ、他のスタジオには生み出せないような会話量多めの「聞かせる」アニメでした。そんな物語シリーズが会話を捨てて、とんでもない作画で殴る蹴るのバトルを繰り広げてるんですよ。面白くないわけが無いですよね。こちらは「見せる」アニメでしょう。これはある種の、アニメーションにおける原点回帰ではないでしょうか。

聞かせるから見せる、そこから魅せるへ。物語シリーズはアニメ会のヌーヴェルヴァーグそのものです。